雑木林の彫刻家

井の頭公園の名彫刻家をご存知ですか？ 　自然文化園の北村西望のことではありません。井の頭公園の雑木林にたくさん生えている「アカシデ」のことです。左の写真がその作品のひとつです。 　雑木林の彫刻家、アカシデをご紹介しましょう。

じつは私は、『アカシデはロダンに似ている。』と密かに思っています（ここで公表してしまったわけですが）。下の写真を見てください。滑らかな肌、美しく隆起した筋肉、まさにロダンだと思いませんか？ 　それはどうかなという方でも、アカシデが優れた彫刻家であることは認めていただけるのではないでしょうか。アカシデの幹は円柱形にはならず、このように複雑に隆起する性質があるのです。

	アカシデが歳を重ねるにつれて、その作品はさらに迫力を増していきます。 　左の作品などはまさに力強くて、見るものを圧倒する力があります。
時には、信じられないほど手の込んだ作品を生み出すこともあります。下の２つがそれです。 　いったいどうするとこんな作品が作れるのか、切って年輪を見てみたい気がしますが、あまりに鬼気迫っているので、実行する勇気がある人はいないでしょう。 　いずれも本園内にある木で、右の写真のものは私が井の頭公園でいちばんの力作だと思っている作品です。
右の写真はそれと同じ木ですが、その隣に北村西望の作品があります。それと比較しても決して負けていないと思うのは私だけではないでしょう。 　ここまでくれば、アカシデが名彫刻家であることを疑う人はいないと思います。

井の頭公園の雑木林には「イヌシデ」も生えています。左の写真がそれです。こちらも雑木林に多い樹です。 　右の写真ではイヌシデとアカシデが隣り合って生えています。左側がイヌシデです。どちらも「ソロの木」と呼ばれるように、両者はかなり似ているのですが、写真で明らかなように、幹が生長する性質には大きな差があります。アカシデの幹が複雑に隆起するのに対して、イヌシデは素直な円柱形です。イヌシデも歳をとるといい線まで行くことがありますが、彫刻家としての資質はアカシデの方がはるかに上です。

余談になりますが、上でも書いたように、自然文化園の本園には、あの長崎の「平和祈念像」の作者である北村西望の彫刻を展示した彫刻園があります。彫刻は展示館内だけでなく、屋外にもたくさん置かれています。そしてそこにもソロの木がたくさん生えているのですが、不思議なことにその大部分がイヌシデです。本園内にはイヌシデが多く、なぜか本園の外にアカシデが多いのです。 　彫刻園を作った人が、ライバルの作品の激突を回避したのではないかと私は想像しているのですが、考えすぎでしょうか。（たぶん考えすぎですね（笑）。）

落葉樹の葉が落ちた冬は、樹形を楽しむのに絶好の季節です。 　井の頭公園に来られた際は、北村西望の彫刻園や「三鷹の森ジブリ美術館」だけでなく、雑木林のアカシデの彫刻をくれぐれもお見逃しなく。